ラジオドラマ更新日なのでSS なのです・・・(のせ)
IROIRO探偵団うぇ〜ぶSS 4 藍紗
「黒衣の王子様」
お稽古事や、会食等の、上流階級特有の柵から解放される一日。
久方ぶりの休日。
休息。
そんな選択肢は私にはありませんでした。
行きたい場所がある。
会いたい人たちがいる。
思うよりも、考えるよりも早く、車を出させ、それに乗り込んでいました。
たった半年。
たかが半年。
知らない人はそういうでしょう。
私がどれほどこの日を待ちわびていたかも知らずに……
私がどれほど、あの方にお会いしたいか知らずに……
あの方を想うと、自然と笑みが零れ、胸が痛くなる。
あの方を想うと、心の中が優しく、暖かくなる。
「何でも探偵事務所」に向かう車の中で、見覚えのある通りが目に入る。
「あの場所は……」
誰に言うかでもなく、私は呟いた。
そして瞳を閉じる。
あの場所は、私とあの方が出会った場所。
私が、恋に落ちた場所…………
初めて一人で歩く庶民の街。
足取りは軽く、見る物全てが輝いて見えます。
誰にも内緒。
今頃屋敷では、私が居なくなったと大騒ぎしているでしょう。
慌ててる執事の顔を想像するだけで、笑いがこみ上げてきますわ。
ドンッ
肩に衝撃が走り、私は思わず尻もちをついてしまう。
品の無い格好の男が二人、私を見下ろしていた。
男の一人が肩をさすっている。
「ってーな」
「ぶつかってきたのはそっちでしょう! 痛いのは私の方ですわ。謝りなさい!!」
「んだと? てめーが謝れよ!」
スカートの汚れを払い、立ちあがる。
こんな男ども、怖くも何ともありませんわ!
「あなた方が謝りなさい」
私は静かに言い放ち、男どもを睨みつける。
「生意気な女だな」
「おい、こいつ結構可愛くねぇ?」
下卑た笑いを浮かべる男ども。
私の背筋に、嫌なモノが走る。
頭の中で警鐘がなった瞬間、もう手遅れでした。
男に手を掴まれた。
「っ!? お放しなさい!!」
力いっぱい振りほどくと、男を叩いてしまった。
あ、と思った時には遅く、男の瞳に怒りが宿る。
「ってめー」
殴られる。
身体が瞬時に判断し、私は半歩身を引いた。
それと同時に、黒い塊が私と男の間に割って入った。
黒い塊は、人でした。
少年とも少女ともとれるその風貌。
私を背で庇い、男の拳を受けていた。
「な、何だお前?」
「……」
「おい、こいつもやっちまおうぜ」
「……ふぅ」
黒い人が小さくため息を吐いたと同時に、男どもが黒い人に殴りかかる。
時間にして数秒。
まるで、美しい舞。
この私が引き込まれる程に、その方の戦いぶりは美しいものでした。
呼吸一つ乱さず、その方の舞は終わりました。
ゆっくりと、こちらに振り返る。
漆黒の髪が揺れる。
アッシュグレーと、漆黒の瞳が、不思議なオッド・アイが私を見つめていました。
「あ、あの……」
「怪我はない?」
「え、えぇ」
「そう」
「わ、私、助けてほしいなんて、その……言ってないですわよ」
「知ってる」
「え?」
「ボクが勝手にやっただけだから……」
「……」
「無事で、よかった……」
言って、静かな、微かな笑みを浮かべました。
何でしょう?
心臓が、ドキドキ言って、顔が熱いですわ。
背を向けたその方に、思わず私は声をかけた。
「あ、あの!」
「何?」
「お、お礼が……したい、ですわ……あの、貴方のお名前を…………」
「さぁね」
一瞬意地悪な笑みを浮かべ、その方は、黒衣の王子様は、私の前から姿を消した。
思い出すだけで、今もドキドキしてしまう。
私の大切な思い出。
今から会いに行きますわ。
私の黒衣の王子様…………
最近のコメント